フォト&コラム
■『ルイ14世のミサ』直前情報(2010年8月28日掲載)
聴き所
ド・ラランド、と聞いてぴんと来る人は、バロック音楽の愛好家でも少数派かもしれません。でも、17世紀にはヴェルサイユの宗教音楽を一手に担っていた巨匠で、ルイ14世お気に入りの作曲家でした。知られざる名曲が数多くありますが、ついにコントラポントによって、その代表作が一挙に演奏されます。詩編の祈りを、フランス・バロック特有の表現で、華麗で優美、しかし時に劇的な音楽に作っています。初期の意欲的な作品から、不協和音を積み重ねて深い苦悩を表す死者のための音楽、また国王の晩餐のための高度に洗練された器楽作品まで、その多彩な世界を、東京カテドラルの豊かな残響の中で満喫できるプログラムです。
カンタータのような独唱アリアも、また独唱と合唱のスリリングな掛け合いもあり、その豊潤な音響世界はまさにヴェルサイユの宮廷ならではと言えるでしょう。
ヴィオラが二部から三部に分かれるフランス・バロックのオーケストラで、低音にはチェロやコントラバスではなく、ヴィオラ・ダ・ガンバと、チェロよりひとまわり大きなバス・ド・ヴィオロンが使われます。通奏低音にはオルガンとテオルボの他、ルイ14世お気に入りのギターも加わります。ヴァイオリン、フルート、オーボエ、ファゴットのそれぞれのヴィルトゥオーゾな、あるいは愁いに満ちた美しい独奏を聴くこともできます。
そして、このプログラムのために、今回のコントラポントは独唱4名、合唱17名、器楽17名という大きな編成をとります。特に合唱部は新進気鋭の若手声楽家たちが結集して今回新たに創設されました。その新鮮な響きにどうぞご期待ください。
コントラポント リハーサル風景
裏話
フランス・バロックの演奏には、フランス風のラテン語発音や、イネガル、装飾、独特のフレージング、といった演奏様式がとても大事です。しかし、楽譜そのものも、簡単には手に入らなかったり、校訂が必要な場合もかなりあります。ド・ラランドはその生涯を通して自らの作品を改訂し続け、曲によっては5つもの異なった版が存在するものもあります。「テ・デウム」Te Deum も4つの版が残されており、それぞれかなり思い切った改訂が行われています。今回演奏するのはそのうちの第2版、4つのうちで最も短い版です。時代の趣味に従って、版を重ねるにつれド・ラランドのグラン・モテにも長大な独唱の「アリア」のようなセクションが増えていきますが、この第2版はまだ独唱、重唱、合唱、管弦楽が全体として有機的に渾然一体となった初期の面影を色濃く残して、コンパクトにまとまっています。合唱の役割も大きく、聴かせどころがぎっしり詰まっています。演奏にあたって、パリ国立図書館に残されている手稿譜から総譜を起こしました。
また、王の食卓の音楽としてド・ラランドが作曲した何と300曲余りもの小品が残されていて、「王の晩餐のためのサンフォニー」はその一つです。ただ、現存する資料には旋律と低音部分のみしか残されていません。実際の演奏にあたっては当時の習慣に従って内声のヴィオラのパートを補わなくてはなりません。幸い、このサンフォニーにはジャン・フランソワ・パイヤールが作った版が出版されています。パイヤールといえば、まだ古楽というものが定着していなかった頃のフランス・バロックの草分けのような、パイヤール室内管弦楽団の指揮者ですね。私も中学生の頃にFM放送をよく「エアーチェック」して聴いていました。往年の演奏を改めて聴いてみると、現代の古楽的な常識からはかけ離れていて、ちょっとついていけませんが、このサンフォニーの楽譜はさすがに良くできていて、今でも十分実用に耐えるものです。実は自分で内声を作り始めたのですが、時間も足りなくて、どうもパイヤール以上のものができるとは思えなくなってきたので、今回はあきらめました。ただ、基本的な楽器編成や、和声感覚がちょっとド・ラランドと違うかな、と思われるところもありますので、今回はパイヤール版を私の考えで少し手直しして、楽器配分も変更して演奏します。恐る恐るリハーサルで音を出してみたところ、これはもうドンぴしゃ!現代日本が誇る古楽界の名手たちによって、新たな名曲が甦ります!
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